東京での雪の予報に寄与する新たな要素を発見!

1. 発表のポイント

・南岸低気圧(※1)に伴い、東京に大雪をもたらした2018年1月の積雪事例に関して、日本周辺の海面水温の影響に注目し、高解像度の気象シミュレーション実験を行いました。

・東京の雪に対しては、黒潮の大蛇行(※2)に関連して、本州の南の海上の低い海面水温による大気の冷却効果が注目されていましたが、詳しくは研究されていませんでした。しかしながら、本研究により、その冷却効果は重要ではないことが分かりました。

・一方、関東及び東北地方の東の海面水温は、関東地方の気温にまで影響を及ぼします。そして、東京での降雪に強い影響を及ぼすことが本研究で新たに分かりました。関東での雪の予報に寄与する新たな要素として、関東及び東北地方東方の海上での海面水温の監視が重要であることが示唆されました。

 

本成果は、日本気象学会発行の英文専門誌「SOLA (Scientific Online Letters on the Atmosphere)」の早期オンライン出版により、9月30日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:Impact of sea surface temperature near Japan on the extra-tropical cyclone induced heavy snowfall in Tokyo by a regional atmospheric model

著者:高橋洋(東京都立大学)、山﨑拓弥(東京都立大学)

DOI:10.2151/sola.2020-035 (https://doi.org/10.2151/sola.2020-035)

本研究の一部は、JSPS科研費(16K16349、19H01375)、環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20192004)、東京都高度研究(H28-2)の助成を受けたものです。

 

 

2. 概要

 東京都立大学大学院都市環境科学研究科の高橋 洋(助教)と山﨑 拓弥(研究当時、大学院生)の研究チームは、雲の生成・消滅を経験的な仮定を用いずに物理法則に従い直接計算できる高解像度の領域大気モデルを用いて、2018年1月の東京での大雪事例について、異なる海面水温条件で気象シミュレーションを行い、日本周辺の海面水温の影響を詳細に解析しました。まず、既存の気象・海洋データの解析により、黒潮の大蛇行と関連する本州の南方と関東及び東北地方の東方の海面水温が、東京の雪に影響を及ぼす候補として挙げられました(図1)。シミュレーション実験による比較解析の結果、関東及び東北の東の海面水温が、東京の雪に大きく影響を及ぼすことが分かりました(図2・図3)。これは、既存の研究で知られていた海域での海面水温の影響とは異なっており、東京の雪を予報する上で、新たに重要な要素となり得ます。

 関東及び東北の東の海面水温が低く(高く)なると、南岸低気圧が関東に引き込む空気がより冷たく(暖かく)なり、東京での降雪の確率が上がる(下がる)ことになります(図3)。一方で、黒潮の大蛇行と関連した低い海面水温は、南岸低気圧の経路がほぼ変わらない条件では、東京の雪に及ぼす影響は、小さいことが分かりました。よって、本研究では、関東での雪の予報において、関東及び東北の東方の海面水温の影響が、重要な新しい要素であることを明らかにしました。

 

 

3. 背景

 雪に慣れていない東京などの関東地方の平野部では、わずか数cmの積雪でも、社会に大きな影響をもたらします。2018年1月の積雪事例では、東京で20 cmを越える近年まれにみる積雪となり、その後1週間程度にわたって、交通などの社会生活に大きな影響を及ぼしました。

 関東地方の降雪・積雪の多くは、南岸低気圧と呼ばれる温帯低気圧によりもたらされることがよく知られています。しかしながら、この南岸低気圧による雪の予報は、予想が難しい印象があります。実際に、気象庁のホームページ上では、予報が難しい現象の代表例として、南岸低気圧による降雪現象を取り上げています(※3)。

 関東地方の降雪現象を正確に理解するためには、どのような条件が降雪に関わっているかについて、複数の要因を理解する必要があります。南岸低気圧によって降雪がもたらされるため、その襲来時に気温が低いことが重要であることは容易に想像されますが、その低温が、どのようにしてもたらされるのかを、気象シミュレーションにより、複数の海面水温条件を設定して調査しました。

 南岸低気圧に伴う雨や雪の予報は、低気圧の経路と降水をもたらす雲域の広がり方の両方について、正確に予報する必要があります。低気圧に伴う雲域を正確にシミュレートするために、雲の生成・消滅を経験的な仮定を用いずに物理法則に従い直接計算できる高解像度の領域大気モデルを用いました。また、実験結果が偶然か必然かを判断するために、各シミュレーションについて、9回ずつのアンサンブル実験を行い、高解像度のシミュレーション結果を統計的に解析しました。

 意外なことに、南岸低気圧による降雪に関する学術研究は、これまで少なかったのですが、その中で、日本の南を流れる黒潮の大蛇行により低気圧の経路が変わり、それが東京の雪に影響を及ぼすことが明らかになっていました。また、黒潮の大蛇行に関連して本州南方の低い海面水温があらわれることによる大気の冷却効果も注目されてきました。しかしながら、その冷却効果を詳しく調べた研究はあまりありませんでした。さらに、黒潮の大蛇行に伴う本州の南の海面水温以外に、どのような海面水温条件によって、関東の雪が変わるのか、もしくは変わらないのか、という点については、調べられていませんでした。

 そこで本研究では、新たな着眼点として、日本周辺の海面水温の影響に着目し、東京の雪の変化を調べました。この点において、高解像度で、雲や雨を直接計算することにより、降水現象や降雪現象がより正確にシミュレートされることは極めて重要です。

 

 

4. 研究の結果

 まず、東京の積雪が観測された日の前1週間の海面水温の状況を、既存の気象・海洋データにより調べました。その結果、黒潮の大蛇行と関連する本州の南の海域と関東及び東北地方の東の海域の海面水温が、統計的に有意に低いことが分かり、これらの海域が東京での雪に影響を及ぼす候補海域と考えられました(図1)。

 観測データの解析結果をもとに、複数の海面水温条件で、2018年1月の大雪事例の高解像度シミュレーションを行いました。2018年1月の海面水温による再現シミュレーション実験(※4)及び、異なる海面水温条件(黒潮の非大蛇行時の海面水温分布・候補海域の海面水温を2℃上乗せ)による感度シミュレーション実験(※5)を行いました。

 日本周辺域の海面水温の条件を変えたシミュレーション出力を詳しく比較解析した結果、関東及び東北地方の東の海面水温が高い条件では、降水(降雪と降雨の合計)に対する降雪の占める割合が、減少することが分かりました(図2)。この降雪の占める割合の変化は、関東及び東北地方の東の海面水温の影響により説明できます。南岸低気圧が関東の南岸を通過する際に、低気圧に吹き込むように関東平野では、北東の風(※6)が吹きます(図3)。その時に、関東及び東北地方の東の海上から冷たい空気を引き込むため、その海域の海面水温が重要となると考えられます。

 さらに海面水温の影響をより詳しく解析するために、本州の南と関東及び東北地方の東の2つの海域について、海面水温を別々に変える実験を行いました。その結果、本州の南の冷たい海面水温による冷却効果は、東京の雪にとっては、影響がとても小さいことが分かりました。一方で、関東及び東北地方の東の海面水温は、東京の雪への影響が顕著でした。

 南岸低気圧の経路などの大気の条件が、今回対象とした2018年1月の大雪事例と同様であれば、今回のような結果になると予想されますが、異なる大気の条件では、海面水温の影響がより顕著、もしくは影響が小さいなどの違いがみられる可能性もあります。今後は、他の大雪事例や、大雪の予報が外れた事例などに関しても解析をすることで、本研究の結論を修正、再検証する必要があります。

 

 

5. 今後の展望

 本研究では、気象シミュレーション手法により、関東及び東北地方の東の海面水温が、東京の降雪の有無を左右する重要な要素であることを示しました。また、これまでに注目されていた、本州の南の海面水温による大気の冷却効果は、東京の雪への影響が無視できるほど小さいことを示しました。

 本研究では、黒潮の大蛇行による南岸低気圧の経路変化の影響を考慮していないため、これまでの研究で指摘されているように、東京の雪に対しては、南岸低気圧の経路変化はとても重要であると思われます。また、2018年1月の大雪事例では影響が小さかったと考えられますが、関東地方の空間スケールでの寒気の形成などのプロセスも重要になります。

 今後の研究では、南岸低気圧の経路が変化することも考慮に入れて、東京の雪に対して重要な要素を、さらに詳しく調べていく必要があります。また、東京の雪が、将来どのように変化するかということも、重要なテーマです。日本海側も含めた豪雪は、東アジアでの冬季の異常天候を考える上でも重要なポイントと思われます。これらについて、気象データ、衛星観測データ、高解像度シミュレーション等を駆使して詳しく調査していきます。

 


図1:東京における複数の降雪事例(1 cmから4 cm)について、降雪日の前1週間の海面水温の平年偏差(※7)を平均した分布図。降雪時の直前に、本州の南方と関東及び東北地方の東方において、海面水温が平年よりも低いことが分かります。オレンジ色の枠は、候補海域を示します。

 

 


図2:(左)再現シミュレーション実験での降水量(降雪量と降雨量の合計)に対する降雪量の割合の空間分布。100%はすべて降雪で、0%はすべて降雨を示します。(右)再現シミュレーションと感度シミュレーションとの差。海面水温条件の影響として、本州の南の海面水温が低い影響及び、関東及び東北地方の東の海面水温が高い影響を表示しています。これら2つの海域の影響により、降雪が変化したことを表します。

 


図3:(左)再現シミュレーション実験での地上気温(℃)と風(m/s)の分布。ベクトルは地表風。(右)再現シミュレーションと感度シミュレーションとの差。海面水温条件の影響として、本州南方の海面水温が低い影響及び、関東及び東北地方東方の海面水温が高い影響を表示しています。これら2つの海域の影響により、気温が変化したことを表します。

 

 

【用語解説】

※1 南岸低気圧: 本州の南岸を通過する温帯低気圧のことで、冬季の太平洋側での降雪・降水は、この南岸低気圧によりもたらされることが多い。

 

※2 黒潮の大蛇行: 四国・本州南方を流れる黒潮には、大きく分けて2種類の安定した流路のパターンがあり、ひとつは本州南方の東経136度~140度で北緯32度以南まで大きく蛇行して流れる「大蛇行流路」、他方は四国・本州南岸にほぼ沿って流れる「非大蛇行流路」と呼ばれているものである(https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/knowledge/kuroshio.html)。

 

※3 予報が難しい現象について(太平洋側の大雪):

https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yohokaisetu/ooyuki.html

 

※4 再現シミュレーション実験: 2018年1月の大雪事例の大気・海洋条件の下での大雪再現シミュレーション。2018年1月は、黒潮の大蛇行が発生していた。本文のように9回ずつのアンサンブル実験を行った。

 

※5 感度シミュレーション実験: 大気条件は、再現シミュレーション実験と全く同じものを境界値とし、海面水温の条件を変えることで、海面水温の影響を評価した。黒潮の大蛇行ではない海面水温分布など、複数の条件でシミュレーション実験を行った。本文のように9回ずつのアンサンブル実験を行った。

 

※6 北東の風: 北東の方角“から”吹いてくる風。南西向きの風。

 

※7 平年偏差: 平年値からの偏差。平年値に比べて、ここでは海面水温が暖かいか冷たいかを表す。気象学・気候学などで、海面水温に限らず任意の気象要素に一般的に用いる。

 

【関連リンク】

都市環境学部地理環境学科 高橋 洋 助教

 

東京都立大学気候システム研究グループ

 

Climate System Research Group Tokyo Metropolitan University